マルテンサイト系ステンレス
マルテンサイト系ステンレスとは、ステンレス鋼の中でも、熱処理によって硬さや強度を高めやすい種類の材料です。
ステンレスと聞くと、さびにくいことをまず思い浮かべる方が多いですが、マルテンサイト系ステンレスはそれに加えて、「硬くできる」という特徴を持っています。
そのため、ただ耐食性があればよい部品というより、強度や耐摩耗性も必要になる部品で使われることが多い材料です。
この材質のいちばん大きな特徴は、焼入れなどの熱処理によって性質を大きく変えられることです。
一般的なSUS304のようなステンレスは、加工性や耐食性のバランスに優れた材質として広く使われていますが、マルテンサイト系ステンレスはそれとは少し役割が違います。
熱処理によって硬くしやすいため、刃物のように鋭さや耐久性が必要なもの、摩耗しやすい部品、機械の中で繰り返し使われる部品などに向いています。
代表的な材質としては、SUS410やSUS420J2などがよく知られています。
用途としては、刃物、工具の一部、シャフト、バルブ部品、ノズル、ねじ、ボルト、機械部品などが挙げられます。
特に、表面がこすれたり、ある程度の強度が必要だったりする部品では、この材料の良さが活きてきます。
見た目は同じステンレスでも、用途によってはSUS304よりもマルテンサイト系のほうが向いている場合があるのは、この「硬さを活かせる」という違いがあるからです。
一方で、マルテンサイト系ステンレスは万能ではありません。
硬くできる反面、ステンレスの中では耐食性の考え方が少し異なり、一般的にはSUS304やSUS316のようなオーステナイト系ステンレスほど、幅広い環境で高い耐食性を期待する材料ではありません。
つまり、「できるだけさびにくくしたい」ということを最優先にするなら、別の系統のステンレスのほうが向いている場合があります。
逆に、ある程度の耐食性があり、さらに強度や硬さも必要という場面では、マルテンサイト系が有力な選択肢になります。
また、この系統のステンレスは磁石に付きやすいという特徴もあります。
ステンレスといっても、すべてが同じ性質を持つわけではなく、オーステナイト系は磁石に付きにくく、フェライト系やマルテンサイト系は磁石に付きやすいという違いがあります。
そのため、現場で材質を見分けるときの一つの目安になることもあります。
ただし、磁石に付くかどうかだけで材質を完全に判断するのは難しいため、最終的には材質表示や仕様確認が必要です。
さらに、加工や溶接のしやすさという点でも、ほかのステンレスと同じ感覚で扱えるとは限りません。
マルテンサイト系ステンレスは熱処理によって硬くなる性質を持つため、溶接や加熱を伴う工程では材質の変化に注意が必要になる場合があります。
つまり、選ぶときには単に「ステンレスだから大丈夫」と考えるのではなく、加工方法や使用条件もあわせて考えることが大切です。
マルテンサイト系ステンレスを選ぶ時は、耐食性を最優先するのか、硬さや強度を重視するのかを整理することが重要です。
屋外での防錆性を最優先するなら別の材質のほうが向いている場合もありますし、刃物性や耐摩耗性を重視するなら、この材質が非常に有力になります。
マルテンサイト系ステンレスは、ステンレスの中でも「硬さを活かして使う」タイプの材料です。
用途に合えば、とても実用性の高いステンレス材の一つです。
